聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~


「あまりにドレスがよくできたので、急に心配になったんだ。他の男から言い寄られるんではないかとな。それで、……つい、こんな刺繍を頼んでしまった」

「わ、私……、恥ずかしいです。フレデリック様の言うことを真に受けて嫉妬なんかして。……職場にまでやってきちゃうなんて」

「いや、どうやって渡そうかとこれから一週間は悩むところだったから。……まあ、予定とは狂ったがいい。早く君の喜ぶ顔が見れる」

そう言うと、アーレスはいずみに優しくキスをした。

「喜んでくれるだろう?」

胸がはやる。この人が好きだと。大好きだとこの世界中に宣言したい。

「もちろんです。大好きです、アーレス様っ」

団長室のソファで抱き合うふたりを、こっそりと見ているのはフレデリックとエイダだ。

「うわあ、あの堅物の団長がメロメロだ」

「うん。びっくりだよねー」

「でも、今の団長、いいよな。なんか人間味があって」

「そうね。イズミ様も親しみやすくて。……お似合いのふたりじゃない?」

顔を見合わせて、これ以上は邪魔しませんとばかりにふたりは団長室から離れた。
いずみがその部屋を出てきたのはそれから三十分は後だったが、中で何があったか、聞かないのはエイダの精いっぱいの気配りだった。