「うわっ」
下の方では、訓練に戻れといわれたフレデリックが、覗き目的ではしごをかけていた。
そこに布状のものが落ちてきて、思わず声を上げたのだが、この時のいずみとアーレスの頭には入って来ていなかった。
「……イズミだったのか?」
アーレスが、驚愕の表情をたたえて、イズミを見つめる。
「なにが、……ですか?」
「あの時俺を助けてくれたのは、ミヤ様じゃなかったのか?」
濃青の瞳が、食い入るようにいずみを見つめる。
(……思い出した。この瞳、あのときの)
召喚される、ほんの直前。
どことも知れぬ空間で見た、敵に囲まれた兵士の瞳と同じもの。
「いずみ、……君は昔、兵士を助けたことはないか?」
「うそ、だって、あれはもっと若い戦士だったはず」
「俺はあの時十八だった。自分の強さに過信し、仲間と敵陣を突破していった」
だが、地の利はあちらにあった。いつの間にかアーレスたちは岸壁に追い詰められ、絶体絶命の状況になった。
仲間がひとりふたりと倒れ、背後に残った仲間をかばいながら、アーレスは無我夢中で剣をふるった。
だが、崖下から現れる伏兵にまでは気づかなかったのだ。
そのとき、天から声が響いた。
『危ないっ。うしろ』
その声に、アーレスは咄嗟に振り向き、仲間とともに九死に一生を得た。
天におぼろげに浮かんだ女性の影は、輪郭もはっきりは見えなかったが、黒い髪に、黒い瞳だけが見て取れた。そして、アーレスの呼びかけには答えず、その姿をすぐに消してしまったのだ。



