聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

ちゃんと愛してもらえている。そう思うのに、なぜ不安になどなるのか。
彼の愛情を疑う余地などないのに。

(……違う。それでも私、嫌だ。アーレス様に、他の女の人を触ってほしくない)

自分だけを愛してほしい。他の人なんて見ないで。
普通の女性にあたり前にある嫉妬の感情は、いずみの中にも当然のように生まれていた。

(よそ見なんてしないで。頑張るから。ずっと好きでいてもらえるように、いくらでも努力するから。ミヤ様よりも誰よりも、私のことを好きでいて)

泥臭い嫉妬が、愛の中にある嫌な感情が、いずみを包む。
この感情も、きっとアーレスを好きでいる限り、消せることはないのだろう。

(それでも、私はもう、アーレス様への気持ちを捨てられない……!)

「アーレス様、入ります!」

ノックもそこそこに扉を開けると、振り向いたアーレスは驚いたようにいずみを見つめ、さっと後ろに大きな物体を隠した。

「イズミ? なぜここに」

「なにを隠したんですか? アーレス様」

いずみがずんずん中に入っていくと、アーレスもなぜかどんどん後ずさる。
これはますます怪しい。何か隠しているとしか思えない。

苛立ちに、思わず彼を睨んでしまう。濃青の瞳が、困ったように彼女を見返した。

(……あれ?)

不思議な既視感に襲われる。それはアーレスも一緒だったのか、彼は気が抜けたような顔をした。
だが後ずさっている足は止まらず、アーレスは空いていた窓に背中をぶつけた。
ぐらり、と彼の体が後ろに傾ぐ。

「危ないっ。うしろ」

イズミが叫んだと同時に、アーレスはバランスを崩した体を支えるために、窓枠に手を伸ばした。その際、彼が後ろ手に隠していたものは、窓の外へと落ちていく。