聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~



セシリーが順調に回復し、いずみたちも日常を取り戻したころ、フレデリックが屋敷に駆け込んできた。

「イズミ様ーっ」

「お約束のない男性をお通しはできません」

玄関先で攻防を繰り広げるのはリドルだ。だが、騒がしいフレデリックの声は屋敷中に響いている。

「どうしたんですか。フレデリックさん」

騎士団は今日も仕事のはずだ。当然、アーレスも朝から出かけたきりである。
たしかに後半組の昼休憩の時間ではあるが、そうふらふらと抜け出してくるものではない。

「大変ですっ。団長のところに女の人が来たんですよ」

「はぁ?」

「それが……、前にも来た女性なんです」

そういえば、以前フレデリックとエイダが遊びに来たときに、そんなことを言っていたような気がする。
だが、いずみにはどうにも信じがたい。
アーレスが二股をかけるほど器用だとは思えないし、何より、自分への愛情表現には今だ陰りが見られないからだ。

「単純にお仕事なのでは?」

「騎士団の仕事に女の人が関わるわけないじゃないですか。俺っ、団長の一途なところがカッコいいって思ってたのに。裏切られた気分ですよ」

「勝手に裏切られたことにしないで。……アーレス様に限ってそれはないわよ」

そうは思いながらも、いずみも少しばかり不安になっていた。

「じゃあ見に行きましょうよ。イズミ様」

「え?」

「俺の言うことが信じられないんでしょ? 今まさに、団長室にふたりきりでこもってるんですから。一緒に見に行きましょう」

「奥さま、焼き上がりましたよ。ジンジャークッキー」

そこへジョナスがやって来る。

「あっ、いいにおい。ほら、騎士団への差し入れって言えば、突然の訪問の言い訳にもなるじゃないですか」

フレデリックの言葉は悪魔のささやきのようだった。

「……分かりました。行きます」

負けたような気持ちで、いずみはうなだれた。