「だが……」
医者は戸惑っているようだ。彼らに了承されなれなければ、いずみはセシリーを引き取るつもりだった。
「こちらでしていただけないなら、私が彼女を屋敷に連れ帰ります。……アーレス様」
「構わん。君の大事な友人なのだろう。すぐに彼女の家族に連絡し、屋敷に移す手配を整えよう」
「待て」
立ち上がったアーレスを止めたのは、戸口から入って来たオスカー王だ。
「イズミの言うとおりにしてみろ。そして経過を観察するんだ。私はこの聖女を呼び出すとき、〝この蔓延する病を治せる聖女を〟と神に祈った。そして来たのがイズミだったんだ。だとすれば、この病に関してはミヤ様よりもイズミの方が信用に足ると思う」
「は、ははっ」
すぐさま医師や使用人たちが動き出す。
いずみは信じられないような気持ちでオスカー王を見つめた。
「意外です。オスカー様がミヤ様よりも私を信じるなんて」
「……料理に関して、腕は明らかに君の方が上だ。俺はミヤ様の傍にいたからこそ、それをよくわかっている」
「そうですね。知識が豊富である以外は、ミヤは普通の女性でしたよ。功績ばかりが先歩きして、神々しい聖女のイメージを押し付けられていましたが、普通に失敗もするし、嘘やごまかしをすることだってありました」
続けるのは宰相だ。
いずみは、胸に凝り固まっていたミヤ様へのコンプレックスが、緩やかに溶けていくのを感じた。
「君は、料理で我が国を救う聖女だったのかもしれん」
オスカー王の言葉は、その場にいた使用人たちを通じて城中へと広まっていく。
やがて、セシリーが回復するにつれ、「イズミ様の考案する料理には聖女の魔法がかかっている」などと根も葉もないうわさが立ち始め、やがて国中へと広まっていったのだ。



