聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

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呼ばれてすぐきた医者は、セシリーの症状を「いつものはやり病」と位置付けた。

「はやり病のこと、具体的に教えてくれませんか」

いずみには、この病の原因がおぼろげながらつかめていた。ただ、確証がない。
だから情報が欲しかった。

「病人は、王都近くに集中しています。とはいえ、近くの人が発症するというわけでもないので伝染性はあまり疑われていません。いずれも衛生面には気を配っている人間が多く、細菌感染という可能性は低いと考えられています」

「王都周辺?」

「ええ。不思議なことに辺境の方ではあまりこういった症状は出ておりません」

それで、何となく確証が持てた。
いずみはあくまで可能性の話ですが、と前置きして続ける。

「私のいた世界に、壊血病という病気がありました。古くに途絶えて、今その病を患う人はほとんどいないので、詳しい症状は私には分かりません。ただ、その原因がビタミンCの欠乏であることだけは知っています。私はこの世界に来て、あまりに生野菜が食べられないことを不思議に思っていました。火を通せば、衛生的であることに間違いはありません。ただ、火を通せば失ってしまう栄養もあります。特に熱に弱いのが、ビタミンCです。どうか、セシリーに出来るだけ新鮮なオレンジや緑野菜を与えてください。それで治るようなら、これはおそらく壊血病です」

王都周辺にこの病が多いのは、作物の産地から離れているからだ。
そのため、彼らは衛生面を気にして、敢えて食物に火を通す。
統計を取って見なければ確定はできないが、採れたものをすぐ食べられるような果物の産地ではおそらくこの病は起きていないだろう。

周囲にいた人間はいずみの進言にざわめく。
食品に火を通すように、と命じたのはミヤ様だという。出来損ないの召喚聖女がその反対のことを言ったところで、信じてもらえるかどうかは怪しい。
それもあって、いずみはずっと口に出すのを恐れていた。

だけど、倒れたのはセシリーなのだ。
自分を救ってくれた大事な友人を、見殺しにすることなどできない。