いずみはアーレスの顔を見上げる。彼が予想よりずっと優しい瞳で見つめていてくれて、胸が温かくなるのと同時にギュッと詰まって苦しいくらいになった。
「やったな。イズミ」
「アーレス様……ありがとうございます」
ふと、オスカーの隣に立つ壮年の宰相がぽつりと言った。
「これを、ミヤに食べさせたかったですね」
「そうだな。ミヤ様が最後まで望んでいたものだ」
オスカー王も同調する。あのミヤ様ができなかったことが自分にできたのだと思うと、とても不思議な気持ちになる。同時に、セシリーが言ってくれた言葉は、本当だったのだと実感できた。
『イズミ様には、イズミ様の力が必ずあるはずです』
(本当にそうだわ。ありがとう、セシリー)
その後、イズミの料理は側近たちにもふるまわれ、好評のうちに食事会が終わる。
いずみは城の料理人たちに囲まれ、レシピの提供を頼まれた。
と、ふいに廊下が騒がしい。何事かと思って覗くと、メイドがひとり倒れているのが見えた。
「これは聖女様、すみません。掃除係が体調を崩したようで」
掃除係と言われて、その姿を凝視する。確認できたその顔はセシリーのものだった。
「セシリー!」
「イズミ様、お待ちください」
いずみを止めようとした文官をアーレスが止め、ふたりはセシリーの傍による。
「……っ」
顔に広がっていた点状出血の範囲が広がっている。そして、歯ぐきからも血が出ていた。
「どうして……しっかりして、セシリー!」
涙目になるイズミの背中を撫で、「とにかく医者に診せよう」とアーレスがセシリーを抱き上げる。
「悪いが、騎士団宿舎の一室を用意してくれ。それと医者を。かかる費用は全部俺がもとう」
よく通るアーレスの声に、皆が背筋を伸ばし、動き始める。



