聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~



それからしばらくは、平和な日々が続いた。
とはいえ、アーレスに抱かれた翌日は、料理も出来ないくらい疲れ果てていて、厨房にも立てない日がある。
屋敷のみんなは子供を除いて、主人夫婦に進展があったことに気づいているので、生暖かいまなざしを送っている。
いずみとしては恥ずかしくて仕方ない。

そんなある日、エイダとフレデリックが遊びにやって来た。

「イズミ様、お元気ですか?」

最初は恐縮していたエイダだが、イズミが喜んで迎え入れるとやがてリラックスしてくれた。

「ええ。エイダさんに会えてうれしいです。……でも、何であなたがいるんです? フレデリックさん」

もろもろの諸悪の根源であるフレデリックに、思わず冷たい目を向けてしまう。

「俺、今日非番なんですよ」

それは訪問の理由にはならない。いずみはエイダを軽く扱った彼を許してはいないのだ。

「エイダさん……」

「もういいんです。イズミ様。アーレス様にぼっこぼこにしてもらったらスッキリしちゃって。今、私達友達なんですよ。思えば、貴族なのにこんなに親しくしてくれる人って貴重ですもん。ね、フレデリック」

「そうそう。そうなんですよ」

相変わらず調子がいい。いずみにはまだ不満があるが、本人が許しているのに脇からごちゃごちゃいうことでもない。大人しく黙ることにした。

いずみは日の当たる部屋にふたりを通し、アーレスの夜のおやつ用に焼いたジンジャークッキーでもてなす。

「それにしても、最近の団長は凄いですよ。俺たちもだいぶ体力がついたなって思ってたんですけど、団長には全くかないません。俺たちが数人で向かっていってもかなわないのですから」

「まあ、アーレス様は規格外ですから。同じように戦えなくてもいいと思います。頑張っているんですね、フレデリックさん」