「たしかに俺は、ミヤ様に焦がれていた。窮地に天から救いの声をくださったのだ。そんな神のような所業に、仕えるべきはこの方だとそう思えたのだ。だからだろう。ミヤ様が他の男と結婚しているのも、仕方のないことだとしか思わなかった。今思えば、俺はミヤ様を生身の人間とは見ていなかったのかもしれない。……だが、イズミは違う。守ってやりたいと思うし、何でもしてやりたいとも思う。……でも同時に、俺も愛されたいと願ってしまうんだ」
愛を乞う。
自分にはできないと思っていたそれが今はできる。
「イズミ。俺が持ちうるすべてを君に捧げよう。だから君は、その心を、すべてを俺に捧げてほしい」
姉の夫の臭いセリフを今まで馬鹿にしてきたが、心の底から願うと、驚くほど自然に言葉が浮かんでくるものだった。
「君を愛している」
アーレスの指を握っていたいずみの手が、ピクリと動いた。怪訝に思ってのぞき込んでみると、彼女の瞼はぴくぴくと動いていた。
「イズミ……もしかして、起きているのか……?」
彼女はびくりと体を震わせ、おそるおそる目を開けた。
マホガニーの家具のような濃茶の瞳が、アーレスを捕らえる。途端に、気恥ずかしさが増して、アーレスも一気に真っ赤になった。
「ゆ、夢かと、思ってました」
彼女は真っ赤になった顔を押さえたまま、そう言った。そのかわいらしさは、アーレスの理性を破壊するのには十分だった。
「イズミ」
自然に沸き上がった生唾を飲み込んだ。喉を伝っていくのが妙に感じられて、ああ自分は喉が渇いているのかと、漠然と思う。
カラカラに、乾いているのだ。乾いていることにも気づかないほど。
「最初に、妻としての役割は求めないなどと言っておきながら、愛を乞うなど俺は浅ましいのかもしれない。だが今の俺にとって、君は聖女なだけではない。妻でり、誰より愛しい女であり、……俺の欲を駆り立てるただ一人の女性だ」



