「聞いたぞ、猛獣使いの聖女」

やって来るなり、失礼なことを言うのはオスカー王である。
アーレスが怪我をしたことを知った彼は、執務の合間を縫ってやって来たのだ。

「お久しぶりです、オスカー様。なんですか、その変な名前は」

「今や君の通り名はそれだ。猛獣さえも倒す騎士団長アーレスを意のままに操る聖女、という意味らしいぞ」

「……フレデリックだな?」

ベッドからはアーレスの凄みの利いた声がする。どうしてフレデリックはこんなに彼を怒らせるのが上手なのか。彼にこそ、『猛獣起こしの騎士』の称号を授けたいところだ。

「省略の仕方がおかしいです。まるで私が猛獣を飼っているみたいじゃないですか」

「そう間違いでもなかろうよ」

オスカー王は今日も楽しそうだ。そんな陰で側近たちが結婚相手を探そうとヤキモキしていることも知っているやらいないやら。

「だが、うまくいっているようで何よりだ」

オスカーも一応は気にしていてくれたらしい。少しばかり嬉しくなっていずみは微笑む。

「それに、そなた、前よりきれいになったのではないか?」

「美しいご尊顔の殿下に言われてもそんなにうれしくありませんけど、ありがとうございます」

「何を今さら。あれは王室の化粧係が派手すぎたせいですよ。いずみは前から可愛いです」

さらりと言うアーレスに、オスカーは驚きを隠さない。