「また、……ミヤ様」

同じ聖女でありながら、自分とは天と地ほど違うミヤ様。
ここに来てからずっと比べられ、失望され続けてきた。それでも平気に想えるようなったのは、アーレスが温かく迎えてくれたからで。

(アーレス様も、……ミヤ様が良かったんだ。同じ境遇の聖女だから。だから彼は私を受け入れてくれただけだったんだ)

そう知ってしまったら、もう無理だった。
お盆を掴んでいる手からは力が抜け、茶碗の割れる音が響く。

「誰だっ」

「い、イズミ様?」

ボロボロと泣くいずみに、慌てて近寄ってくるのはエイダだ。

「聞いてたんですか? ちょ、フレデリック!」

「やべ。団長に怒られる」

アーレスの部下に、無様な姿を見せるのは嫌だった。
いずみは袖でぐっと涙をふき取ると、無理やりに笑顔を作る。

「ごめんなさい、割ってしまって」

うずくまって割れた破片を拾い集める。

「イズミ様、いいですよ。私がやります」

「そうですよ。それに、今は団長、奥様にメロメロじゃないですか。今その話をエイダから聞いてて」

「いいの。ありがとう。気を使わせてごめんなさい」

破片を拾い集めた後は、限界だった。
エイダに託したあとは、あてがわれた部屋に急ぐ。

部屋はすでに綺麗に整えられていた。
騎士団宿舎の清掃は王城のメイドが当番制で当たっているらしい。
ベッドにダイブして、ひとしきり泣きまくる。自分でもびっくりするほど、涙が止まらない。帰れないと知ったときでさえ、こんなに泣いただろうかと思うほど。
幸い、しばらくは誰も姿を見せなかったため、いずみは思う存分泣くことができた