「えー! でもラブラブだったよ、ふたり」

「まあ、アーレス様だって報われない恋愛をいつまでも引きずってはいないんじゃないか?」

続けられた声は、セイムスのものだ。そしてもうひとり、フレデリックが続ける。

「でもアーレス様、ずっと聖女を想っていたって話だぜ? 昔助けてもらったことがあるんだと。その時から、聖女……ミヤ様の力になることだけを考えて生きてきたって……だからどんな縁談も断っていたんだってルーファス様から聞いたんだけどなぁ」

一瞬、いずみは頭が真っ白になった。
彼らの話を総括すれば、アーレス様の恋しい人とは、ミヤ様だということになる。
とはいえ、ミヤ様は宰相様と結婚していたはずだし、年齢差は半端ない。でもそんなことさえ、あのストイックなアーレスにとっては、障害ではなかったのかもしれない。

「まあ、盲目的に愛しそうだよね、あの人」

「そう、常にストイック。恋愛にもそうなんじゃね? 報われない恋でも、平気で耐えそう」

あんな大きな伯爵家の息子で、騎士団の上役を勤めるような人に、これまで縁談がないわけがないのだ。

(そうか。アーレス様はミヤ様に忠誠を捧げるために、結婚しなかったんだ)

だとしたら納得がいく。あの年まで独身であることも。