「食事の用意ができました。その前に着替えのお手伝いをいたします」

「着替え?」

いずみは思わず自分の服を見る。寝ていただけなので別に汚れてはいない。今日は助手としての撮影だったから、清潔そうなシャツにワイドパンツというスタイルだ。特段おかしいということはないはずと考えていると、メイドは苦笑して言った。

「国王様との晩餐になりますので、見合ったドレスをお選びいたします」

「晩餐……」

仰々しい言葉に、一瞬思考が止まる。

(そうか。気さくな感じで話しちゃったけど、あの美形、王様だったよね。うわ、急に緊張してきたし!)

「あの、食事の作法とかあるのかしら」

一応料理研究家ではあるし、食事のマナーは知っている。……だがそれは現代日本のものだ。この世界独特の作法があったら、間違いなく粗相をするだろう。
そんないずみの心配を、メイドは笑顔で一蹴した。

「一般的な作法をご存知でしたら何も問題ありませんよ」

「いや、だから」

その一般的の基準が分からないんだって。
そう言いたかったけれど、常識が違うかもしれないことを、どう説明していいか分からない。
いずみは浮かび上がる数々の疑問を、すべて黙って飲み込み、メイドに身を任せることにした。
彼女が用意してくれたのは、ブルーのドレスだった。レースが大量につけられていて、色合い的には清楚なはずなのにごってりしている。髪も結い上げてもらい、ネックレスやイヤリングで飾られる。

(こうしてみると私だって……なんて微かにでも思ってごめんなさい)

いずみは鏡の中の自分を見つめ、思い切りため息をついた。うりざね型の和顔に、ドレスなんて似合うはずもなかった。まるで市松人形がドレスを着ているような違和感満載だ。