「奥さま。旦那様は少し熱いようですね。もしよろしければ、奥さま特製の冷たい飲み物をいただいたりは……」

「あっ、そうですね。ショウガを使った飲み物があるんです。ちょっと待っていてくださいね、アーレス様!」

いずみがバタバタと厨房へとかけていく。
赤い顔を片手で隠すように押さえて、アーレスは気の付く家令に感謝した。

「……悪いな、リドル」

「いいえ。照れずに伝えればいいのではないですか。結婚されているとはいえ、まだ実も結んでいないようですし」

「ぶっ」

吹き出すアーレスに、ナプキンが差し出された。

「奥様が大切なら、言葉にするのをおろそかにしてはなりませんよ。言わなくても伝わるなんて考えは男の傲慢です」

「……姉上みたいなことを言うな」

「おや、さすがはグレイス様。大事なことをご存知ですね」

リドルは微笑みを絶やさずに続ける。

「私は当初は旦那様が奥方様を助けようといやいや娶ったのかと思いましたが、今となっては違いますよね。あなたは彼女に、いろんな面で助けられているでしょう」

「……うむ」

「大切だと思うなら、絶対に手を離してはなりませんよ」

『愛は全身で伝えるものよ。それができないなら、どれほど武勇に優れていようとも、あなたは意気地なしだわ』

かつて叶わぬ片思いを胸に秘めていたアーレスに、グレイスはそう言った。
当時は反発心が先だったものだが、今はその通りだと思う。
伝えるべき相手がすぐ傍にいるのに、現状に甘んじて伝えない自分は意気地なしなのだろう。
けれど、この年になってという思いが、アーレスにストップをかける。

「アーレス様! できました。ジンジャーエールです」

「ジンジャー……?」

「ショウガ入りなので疲れが取れますよ、ぜひ!」

彼女との今の距離感が居心地が良すぎて、アーレスは変化を恐れてしまう。
リドルが、苦笑しながら夫婦を眺めていた。