「では現在の問題である流行り病についてはどうお考えですか? 陛下の御父上は四十五歳の若さでお亡くなりになりました。ほんの数か月前までお元気そうでしたのに、体の倦怠感を訴えだしたかと思ったら、怪我も増え、出血し、あっという間に……」

「すみません。それも、……ご本人を見ていないのでわかりません」

(医療従事者じゃないし。知らないって。ああ、もしかしてミヤ様って、お医者様かなにかだったのかな)

だとすれば無双具合も頷けるかもしれない。だけど、いずみに同じだけのことを求められても困る。

「ちなみにそなたはいくつなのだ?」

「私ですか? 二十六です」

美形王様の問いかけに答えると、彼はこれまでで最も落胆したようだった。
神官をぐいと捕まえて、ふたり揃って部屋の端まで寄ってこそこそを話している。

「神官! 話が違うぞ。全然ミヤ様とは違うじゃないか」

「そんなことを言われましても。召喚の儀自体は成功ですからね?」

いずみは黙って待っているが、聞いているだけで胸が痛くなるのを感じた。

(聞こえてますよ、王様。期待と違ったんですね。それにしたって、いきなり呼びつけといてその失望は酷くないです?)

漂う厄介者の気配に、どんどん落ち込んでくる。
ただでさえ、今日は亜由美先生に叱られて落ち込んでいるのだ。夢の中でまでこんな扱いだというならあんまりだ。夢の中でくらい、ヒロインにさせてほしい。

「どうしましょう、国王様」

「いや、……どうしようって、なぁ」

ふたりがちらりといずみを見る。その困り切った顔に、夢だと思って大きくなっていた気もしぼんでいった。

「あの、……ちょっと休ませてもらっても構いませんか」

「お、おお。そうだな。部屋を用意させよう。食事の時間になれば呼ぶからそれまでゆっくり休むといい」

いずみは、頷いてふらふらと歩き出す。きっと、寝れば目が覚めるだろう。
せっかくの異世界だけど、無双になれないなら居心地が悪いだけだ。
やがてやって来たメイドに、豪華な部屋に連れていかれ、いずみはベッドにダイブする。

次に目を開けるときはきっとスタジオの端にでも寝かされているに違いない。

(先生の冷たいまなざしに耐える覚悟だけはしておこう)