「姉上はああ見えて人嫌いなんだ」

移動の馬車の中で、アーレスがいずみにぽつりと言う。ちなみにグレイスは自分の馬車で先導しているので、中にいるのはふたりだけだ。

「そうですか? そうは見えませんけど」

「姉上は見た目がいいらしくてな。結婚する前は、王国が生み出した宝玉とさえ言われていたんだ。極端に整った容姿は、いいことばかりでもない。色々あったんだろう。十五を過ぎたころには家族以外の人間は信用できなくなっていたようだ。とにかく人の上に立っていないと落ちつかないらしい」

「まあ」

「人を制するには情報、と言っていただろう? 誰にも侮られることのないように、情報招集に夜会に繰り出しては精神を摩耗して帰ってくる。俺には馬鹿なことをしているようにしか見えないんだが、姉上はそれが正しい生き方だと思っているようだ」

いずみは隣に座るアーレスの顔を見つめた。
バンフィールド伯爵家はみな整った顔立ちだ。アーレスだって、その筋骨隆々な体つきが前面に立っているだけで、鼻筋の通った端整な顔をしている。若い頃はさぞかしモテただろう。

(じゃあ、アーレス様は真逆なのかな。ずっと辺境警備にあたっていたと聞いたけれど。騒がれたくないからなのかしら)