「それを手に入れて、どうしようというの? あなた」
「もちろん、料理を作るんです!」
拳に力を入れて、目をキラキラさせたイズミを、グレイスは呆れたように見つめた。
「あっははは」
そこで笑い出したのはアーレスだ。グレイスが更に眉間にしわを寄せ、彼を睨む。
「なに笑っているのよ」
「だって、姉上を呆けさせることができる人間がいるなんて思わないだろう。いつもこちらを自分のペースに巻き込む姉上のそんな顔は初めて見た」
「あれっ、私何か失礼をしましたか?」
いずみは焦る。礼を失した覚えはないが、アーレスがこんなに笑い、グレイスが仏頂面になったところを見ると何かしてしまったのだろうか。
「……いいえ。そんなことはないわ。貴族の奥方が料理?とは思ったけれど、可愛い義妹の願いだというなら、喜んで差し上げるわ」
「本当ですか!」
「ええ。そんなに遠くないから、うちに寄っていらっしゃい。夫にも紹介するわ」
その後、ヴィラに贈ったお土産を見たグレイスは、再び興奮したように騒ぎ、クッキーを食べて今度は上機嫌となった。
感情の起伏の激しい女性は苦手なはずだが、グレイスは裏がないのかあまり嫌な感じはない。
「しばらくジナと久しぶりに話したいから、あなたたちはグレイスの屋敷に行ってらっしゃいよ」
というセリーナに背中を押され、いずみとアーレスはふたりで味噌と醤油をもらうためにグレイスの屋敷へと向かうこととなった。



