(誰かに、自分のことを真剣に考えてもらえるのって、こんなに嬉しいんだ)
じわじわと胸に熱が広がっていく。この世界に来てから、アーレスだけが何度も、こんな風にいずみの胸を高揚させてくれる。
「グレイス様が心配してくださるのは嬉しいです。もちろん、アーレス様が私を守ろうとしてくださるのも」
グレイスはいずみの口元をじっと見つめている。先ほどまでは勢いに負けていたけれど、よく見れば決して話を聞かない女性ではなさそうだ。
(そういえばこの人は、私を見ても落胆しなかったな)
落胆しないということは、最初の期待値が低いということだ。
社交的に見えるが、噂をうのみにする人ではないのかもしれない。
グレイス自体が強烈な印象のある、強い引力を備えた人だ。従うが吉なんだろうとは思う。けれど、話を聞こうとしてくれる人に本心を話さないのはまた違う気がした。
「もちろんグレイス様主催のお茶会も参加したいです。でもそれよりも今は私、味噌と醤油が欲しいのです」
「味噌……、醤油?」
グレイスは間の抜けたような声で反復する。
「ええ。グレイス様はご存知でしょう? ミヤさまが考案したという異世界の調味料」
「もちろん知っているわ。うちのシェフが作りづつけているから、今もあるわよ。味噌は正直よくわからないけど、醤油はおいしいわ」
「それを、私に少し分けてほしいんです!」
グレイスの顔が固まった。
どうにも腑に落ちないという顔をしている。



