「弟はこんな男だから、私心配だったのよ。結婚後の女性の心情なんて、何もわかっていないんだから。結婚したとしても、女性は女性であるべきなの。おしゃれにおいしいもの。噂や新しい情報。そんなもので満たされるべきなのよ。……ただでさえイズミ様はこの世界を満喫しているのは言い難いのに。ねぇ、あなたに必要なのは社交だと思わない? お友達を作らなくちゃ。ぜひ私のお茶会にいらっしゃい。みんなを紹介するわ」
グレイスはいずみの手を取り、ギュッと強く握りしめた。
「あ、ありがとうございます」
「そして異世界のお話を聞かせていただきたいわ。まさにトップニュース!」
どうやらグレイスはアーレスと違って、結構なミーハーのようだ。
イズミが何も言えずにいるうちにどんどん話が進んでいく。
「姉上! イズミはこの世界に来たばかりです。無理強いしないでください」
「バカね。来たばかりだからこそよ。女性の間ではね、情報を制する者が強いんです。お前にその辺の機微が分かるとは思い難いわ」
「うっ……それは」
「だったら黙って私にこの子を任せなさい」
グレイスに言いくるめられたアーレスは、申し訳なさそうにいずみを見る。
「……君が困るなら、俺が断る。だが、俺が女性の気持ちが分からないのは本当のことだ。姉上の言うことにも一理あるだろう。いずみはどうしたい?」
大柄な体からこぼれだしたのは、優しく、思いやりにあふれた声だった。
心配してくれるのだ。その一方で、いずみの可能性をつぶしてはならないと考えてくれている。



