「ではお義姉さまにもお会いできるんですね。もしかしたら、味噌と醤油の現物も手に入れられるかも……」
期待を胸に繰り返すと、アーレスもはっとしたように表情を引き締めた。
「まあ、いずみがいいならば俺は問題ない。姉上が来るのを待とう」
「もう来たわよー」
弾むような声とともに入ってきたのは、四十歳近いとは思えない美貌の女性だった。
まず真っ先に目を奪われたのは赤のドレスだ。大きなバストをさらに強調するように、大きく開いた胸周りにはこれまた大きな宝石がつけられている。
顔はアーレスと少し似ているが全体的に派手な印象だ。
「初めまして。アーレスの姉のグレイスですわ。イズミ様。この度は愚弟との結婚、了承してくださりありがとうございます」
「はじめまして。イズミです。こちらこそ。行き場のない私をアーレス様が引き取ってくださって。感謝しています」
いずみの日本人らしい謙遜交じりの挨拶に、グレイスは少しばかり眉を寄せた。
しかし言葉を発する前に、アーレスが横やりを入れてくる。
「姉上、なんだその派手な格好は」
「相変わらず女心の分からない唐変木ね。女性が新しいドレスを着てきたらまずは褒めるものでしょう? アーレス」
「いい年して派手すぎじゃないか」
つぎの瞬間、ゴンと固い音が鳴った。百戦錬磨の騎士団長が、あろうことか線の細い女性にあっさりと殴られたのだ。



