「聖女の力で、国を救っていただきたいのです」

「聖女の力って言われても。私、特別な力なんて」

神官は眉を寄せ、いずみをじっと見つめた。

「失礼ですが聖女様……イズミ様はなんと国からいらっしゃいました?」

「え? 日本、ですけど」

「……ミヤ様と同じだ。やはりあなたは聖女……!」

神官は納得したように笑顔になったけれど、いずみには全く話が分からない。

(日本から来たからってなんだっていうの。……ていうか、なんで日本を知って……)

疑問が顔に出ていたのか、神官はゴホンと咳払いすると、唐突に説明を始めた。

「四十年前の話になりますが、この国で大雨による河川の氾濫が原因で、多くの農作物や住民への健康被害が出たときにも聖女召喚の儀を行いました。その時に召喚されたのが『ササキ・ミヤ』様という名の聖女です。あなたと同じ日本からいらっしゃったのです。ミヤ様は美しく聡明であらせられ、この国に様々なものをお造りになられました。上流で水の流出の制限ができるよう『ダム』なるものを提案され、見事な衛生管理により寝込んでいた者たちを元気にしたのです。イズミさまに、……そのような能力は……」

(なんだその無双な聖女は。そんな前例があるなんて聞いてないよ)

いきなり高く掲げられたハードルに、いずみの心中は穏やかじゃない。

「私は、その、……魔法みたいなものは使えません」

王様の顔が明らかに陰った。
神官も、一度はうつむいたものの気を取り直したように問いかける。