極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~

 閉店作業は月島さんに託して、ひと足先に館を出た。オフィスに戻って雑務を終わらせたのが、八時半過ぎ。

 今日はもう帰ろうかと席を立ち、夕飯のメニューをぼんやりと考えながらエレベーターを降りる。
 ふと、なにを作るにしても材料を買わねばならないことを思い出した。

 帰り道、スーパーに立ち寄りたいが、閉店時間ギリギリだ。
 私は小走りでオフィスの正面玄関に向かった。

「ずいぶん、お急ぎね」

 ふいにかけられた声に振り返ると、ハンナさんがいた。

「ハ、ハンナさん! お疲れ様です」
「マユはもう帰るの?」
「……はい」

 頭からつま先までじろじろと見られながら言われて、なんだか『帰る』って言いづらかった。無意識に視線を落とす。

「ふうん。ワタシはまだシキと仕事が残ってるのよね。早く帰れるの羨ましいわ。ワタシたち、フランスでもアパートに帰らず朝まで仕事するくらい忙しくて」

 遠回しに比べるような発言をされて、ぐっと唇を噛む。彼女は得意げに続けた。

「ま、でもここは日本だから、いつもよりはだいぶラクな仕事ではあるけど。それに、終わった後シキと一緒にディナーするのも楽しみだしね。じゃ」

 ヒールの音を鳴らし、颯爽と去っていく後ろ姿を横目で見る。

 ……翻弄されちゃだめ。私は私だ。

 ゆっくり息を吸い、自分に言い聞かせるものの、やっぱり完全に吹っ切ることはできず、悶々として自宅に帰る。

 なんとかスーパーには間に合ったけれど、今夜織は彼女と食事を済ませてくると知ったら、手の込んだものを作る気にはなれなかった。