極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~

 角度を変えて覗き込んで、驚愕した。なぜなら、彼女はチェック柄のロングシャツの裾にハサミを入れていたからだ。

「なっ、なんでこんなことを」

 ハンナさんは右側のサイドに深い切り込みを入れ、ハサミを置いた。

「だって、見たら全体的に枠にはまりすぎちゃってて。面白さを感じないディスプレイだったからつい」
「だけど急に許可なく……」
「ああ。じゃあ、ちゃんと買い取るから請求書をあとでちょうだい。OK。こんなもんかな~」

 ハンナさんは私の話に聞く耳も持たず、マイペースにディスプレイを変えると、距離を取ってボディを眺めている。
 私は唖然として、なにも言えなくなる。

「どれも無難な柄や色合いばっかりだから、せめてフォルムとか動きとか出してみたんだけどー」

 彼女は腕を組んで、じっと色素の薄い瞳にボディを映し出している。
 その横顔は、紛れもなくプロだ。遊びでこんなことしたわけじゃないと、ひと目でわかる。

 私はハンナさんの目線につられて、ボディを見上げた。

 ロングシャツの右側の前身ごろを、ボトムスの中にルーズに入れてる。
 ハサミでスリットを入れたおかげで、サイドはだぶつくこともなくすっきりとしている。

「正面と両サイド、バック、いろんな形が見せられるでしょ」

 ハンナさんはそう言って、ハサミをカバンにしまった。

 確かに目を引く。
 現に、通り過ぎていくお客さんの視線は、ハンナさんが手を加えたボディに向いている。
 一瞬じゃない。うちの店を通り過ぎるまで、ずっとだ。

 たった一か所、ハサミを入れただけで……。

「マユ。この店はさらっと見たし、ついでに近くのショップも見て回るわ」
「えっ。あ、ハンナさん!」

 私の呼び声などお構いなしで、ハンナさんは楽し気な表情をしてうろうろと周りのショップを徘徊し始めた。