極愛恋情~敏腕CEOに愛し尽くされています~

「やっぱりね」

 軽いため息のあと、射るような視線を向けられる。
 私はハンナさんの綺麗な薄茶の瞳が鋭利に細められたのを見て、ぞくっと背筋を震わせた。

 けれども、彼女はそんな私を楽しむかのようにほくそ笑み、細い手を私の肩にポンと置く。そして、ゆっくりと耳元に瑞々しい唇を寄せる。

「知ってる? シキはレディースもののオーダーは引き受けない。絶対にね」
「……え?」

 ささやかれた言葉に目を剥いた。

 織がレディースものを避けてる……? だけど、確かに私に服を貸してくれた。
 それに、一着二着じゃない。ちらっと見えたスーツケースには何着も入れてあったはず。

 なによりも、昨日私が着ていたワンピースについて話をする織は、嫌々作った雰囲気なんか欠片もなかった。

 ハンナさんは、さらに言う。

「そのために私がいるのよ。レディースを仕立てる役が必要だから。シキがそこまで頑なになるのはなぜか……その理由はわかるわよね?」

 彼女の淡々とした口調が、私の不安感を煽る。
 ハンナさんは、逃さないとでも言うように、完全に硬直状態の私の顔を覗き込む。

「だって、そんなシキが個人的に作ったレディース服を受け取ったのは、マユ。あなたなんだから」

 私だけ――。

 その事実に驚愕し、徐々に湧いてきたのは少しの優越感。
 だけどすぐに、それ以上の罪悪感を抱く。

「シキ、ホテルをチェックアウトしていたわ。あなたのところにいるんでしょ?」

 ハンナさんからピリッとした空気をひしひしと感じる。
 私は狼狽えるだけで、彼女と真正面から向き合う勇気も出なかった。

「ただでさえ、長期出張で仕事が押してるのに、ホテルにいないとなれば打ち合わせする時間もなくて大変なのよね」

 彼女から、織が好きな気持ちがあふれ出てる。
 それが、恋人に対するものと同じかわからないけれど、少なくともデザイナーとしての織を認め、理解し必要としている。

 なにより、きっとハンナさんなら織と同じ視点で立っていられる。
 織と並んで遜色ない人なんだろう。

「あなた、彼の幼なじみだっていうなら、うまくシキを説得してくれないと。彼のためにね」

 特別なものがない自分が惨めだ。だから、彼女に『織を説得して』と頼まれても、自信を持てない。

 ハンナさんに言葉を返すどころか、顔も上げられない。
 そんな私に辟易したのか、ハンナさんは名刺を出してデスクに置いて言った。

「明日、何時にどこへ行けばいいか、メールをください。では」

 彼女は時間の無駄とでも言うように、すぐさま去っていった。
 私はそっと名刺を手に取る。

 織と同じデザインの名刺に、胸の奥が苦しくなった。