「まったく、付き合ってられないわ! なによ、ばかばかしい。イチャつくなら他所でやって!」

 織は投げやりに言い捨てたハンナさんの手から、ルームキーを奪う。

「じゃあ、遠慮なく」

 戸惑う私をよそに、織は私の手を引いてラウンジを後にした。エレベーターに乗せられると、織はさらに上を目指す。

「ちょっと織……どこに……」

 本当は薄々勘付いている。織はハンナさんが言っていた部屋に向かってる。
 私の家に戻るんじゃなく、ホテルの一室を目指しているというのが非日常的で、やたらと心臓が騒ぐ。

 目的の最上階に止まる寸前に、織は私に口を寄せた。

「麻結、俺が来てからベッド狭かったんだろ? 今日は広いベッドで寝よう」

 甘い声を耳もとでささやかれ、咄嗟に目を瞑る。次の瞬間、ポンと音がしてエレベーターの扉が開く。

 ここを降りたら……どうなるかなんてもうわかる。

 私はただ恥ずかしくて、足を動かせずにいた。すると、ひょいと抱き上げられる。

「えっ、ちょっ……」

 慌てふためく私に構わず、織は表情も変えずにそのまま歩みを進めていく。部屋にたどり着き、中に入るなりキングサイズのベッドに降ろされた。

 体勢を整える間も与えられず、織は足元からじりじりと迫ってくる。

「織……待っ――」

 私の言葉を遮って、織は噛みつくようなキスをした。

「んっ」

 準備ができていない。そのせいで荒々しいキスについていく余裕もなくて、すぐに呼吸を乱される。鼻梁を何度も交差させて唇を貪られ、頬が紅潮していくのがわかる。

 ようやく距離ができたときには、すでに声もまともに出せないくらい頭の奥がボーッとしていた。

「し……き」
「やっぱり、俺は自分の作品を麻結に褒められるのがうれしい。それに俺のことを真剣に考えてくれる麻結が……最高に可愛かった」

 やさしく髪を撫でられ、面映ゆそうに目を細める織が瞳に映る。

「ごめん。だから今は麻結の意思はきけない。なにも気にせず、思う存分抱きたいから」

 再び影を落とされたあとは、まっさらなシーツの波間で織の熱を感じていた。