千紘さんのありがた~いお話

「あのっ、私、千紘さんのお、……奥さんだって言ってないんです」

 なんで、今、『お』で止まった?
と思いながら、

「なんでだ?」
と訊いてみる。

 不倫でもする予定か?
 夫の俺とも、まだなにもしてはいないのに、
と思っていると、

「……千紘さんの奥さんだと人様に公言する自信がないので」
と言ってくる。

 どういう意味で自信がないんだろうな?

 偽装夫婦だから?

 いや、そこは、最初からそういう契約だから、別にいいとか思ってそうだが、と千紘は悩んでいたが。

 滑車を回し続けるリスのように、ひとところに止まって落ち込んだりしない真昼は、すぐにコンロの前に戻り、

「例のご好評だったレモン鍋をまた作ってみましたー」
と言って、鍋を運んできた。

「ご好評だったか?」
と心底、疑問に思いながら訊いてみる。