千紘さんのありがた~いお話

 こちらのそんな視線に気づいたように、千紘は言ってきた。

「大丈夫だ。
 お前なら、そこそこ美しいから、お前のような妻が居ると知れば、誰も言い寄っては来ないだろう」

 その、そこそこがものすごい気になるんですけど……。

 ところで、さっきから、いつまでも扉が開かないなと思ったら、この人、階数ボタンを押してないっ。

 押したというのは、嘘だったのだろう。

 えい、と自分で階数ボタンを押すと、ようやくエレベーターは動き出した。

 動いていないことに気づかなかったのは、初っ端から、この人のインパクトが強すぎたからだろう。

「ともかく、時間がないんだ。
 すぐに赴任しなければならないので、他を選ぶ暇もない。

 パッと見たところ、お前は何処でもやって行けそうな人間に見える。
 ちょうどいいから、俺と結婚してくれないか」

 ……いや、こんなプロポーズどうなんだ、と思ったとき、千紘が言った。

「嫌なら、一年限定の偽装結婚でもかまわんぞ。
 礼はしよう」

「えっ」
と言ったとき、扉が開いた。

 先に来ていたらしい峰子の姿が見える。