千紘さんのありがた~いお話

 全部、夢かもねーと思いながら、真昼は儚げな夕暮れの光が海に満ちるのを見ていた。

 あれも夢かもねー、と波打ち際に薄手のコートを着て立つ男を見る。

 千紘の白く整った顔に夕陽が当たって美しい。

 一枚の絵のようだな、とぼんやりその困った夫を眺めていると、千紘はいきなり振り返り、
「見たか、真昼。
 もう帰るぞ」
と言ってくる。

 いや……確か、今、来たはずなんですが。

 わずか、一、二分前に……。

 結婚しても未だに、よそよそしい夫だが、評判の美しい砂浜が見たいと言ったら連れてきてくれた。

 それはいいのですが。

 見たら帰るぞってなんなんですか。
 本当に見せるだけだったんですか。

 この人、なんでもかんでも話が早過ぎるっ、と思いながらも、真昼は彼について、砂浜を出た。