バイトの支度をして家を出る

まだ朝は、少し肌寒い

早歩きでバイト先へ向かいつつ、泉が倒れていた路地を覗く。

シーンとして、静かだ

あんなところに血だらけの人がいたなんて…
想像もつかない


「おはようございます」


CLOSEの札のついた店の扉を開ける。
ほんのり甘い香りが漂う店内は、今日も元気な店長と奥さんがいる。


「杏ちゃん!おはよう。今日は新作があるんだよ」

「えーまじで!味見味見!」

「杏、待て」

わんちゃんにやるように、待てとする店長に奥さんと二人で笑う。

このケーキ屋、マドリカは、夫婦で経営している。
旦那さんが店長でパティシエ、奥さんは接客メインでやっている。

二人はここに来てからお世話になっている。まだ短い間しか一緒にいないが、父や母のような存在だ。


新作はベリーをたくさん使ったタルトで、とても美味しかった。
やっぱり店長のケーキは最高だ

「千恵子さんも食べました?」

奥さんの千恵子さんに声をかけると、二個食べた!という元気な返事が返ってきた。