「え?」

驚く私をよそに、ハールはバイオリンを切り株の上のケースの中に置くと、

「踊ろう!」

と言った。

「踊る…って、だって音楽は?」

戸惑う私の手を取ったハールは、

「演奏は小鳥たちに任せればいい。」

と笑った。

この人も、小鳥たちのさえずりが音楽に聞こえるの?

自分と同じ感覚の人に出会った喜びがじんわりと心の中を暖かくする。

「さ、行くよ。1、2、3!」

ハールのカウントで踊り始める。

なんで?

この人、どうして、音楽もないのにこんなに軽やかに踊るの?

クラウスもダンスの名手だと思っていたけど、踊っていて楽しいのは明らかにハール。

私たちは、日が傾き始めるまで、ずっと踊り続けた。