それ以降、帰りに書店に寄っては、彼を探すようになった。

書店内を本も見ないでぐるりと一周する。

けれど、1週間経っても彼には出会えなかった。

会えなければ会えないほど、なぜか無性に彼に会いたくなった。

なぜ?

自分でも不思議だったが、深く考えることなく、ハンカチを返さなければならないからだと結論付けた。


それから、さらに1週間が経過した。

それまでも度々感じていた視線を以前より感じるようになった。

仕事中ですら。

だけど、何か実害があったわけでもなく、視線を感じるだけで、相手が誰なのかも分からない。

だから、確証なく誰かに相談することもはばかられ、悶々としていた。

そんな折り、同期で友人の優美(ゆうみ)が、お昼休憩中にふと思い出したように言った。

「そういえば、宮原書店に時々、すっごく
かっこいい店員さんがいるんだけど、
知ってる?」

宮原書店。
この前、ハンカチを借りた書店だ。

「もしかして、眼鏡を掛けた背の高い人?」

私は出来るだけ何でもない事のように聞き返す。

「そうそう!
何とかして知り合いになりたいんだけど
なぁ。
合コンとか誘ったら来てくれるかなぁ。」

優美は男性にとても積極的で、その点に関しては私とは対極にいる。

「さぁ…
分かんないけど、優美が誘って断られたこと
なんてないでしょ?」

優美は化粧も華やかで服装も女性らしく、男性が放っておかないイメージだ。

「やだぁ。そんなことないって。」

優美は、明らかに謙遜の口調で答える。

あの人も、優美が誘えば二つ返事でOKするのだろうか。

それを、なんとなく嫌だと思ってる自分に驚いた。

今までそんなこと思ったことないのに。