ママの手料理

(やだ、私も死ぬのっ………！？)


怖くて怖くて、狭いクローゼットの中でもっと小さく身体を縮めて、私が体育座りで膝に置かれた手に力を込めた時。



『とうとう来たか』


『お母さん達がシーツを持っててあげるから、紫苑はシーツに掴まって下まで降りなさい。降りたら、シーツを下に引っ張って。それがあなたが下に降りたっていう合図だから』


もう居ないはずの、本当の両親の声がした。


(え？)


状況が呑み込めていない私をよそに、私の周りは赤く熱くなっていて。


いつの間にか、私の手にはあの日持っていたシーツの感覚があった。


『ちゃんと降りて来てね』


あの約束が果たされる事は無かった。


『紫苑、ゆっくりで良いからね！』


『すぐに行くからな！』


そう言って無理に笑ってくれていた彼らの手に、シーツが握られる事は二度となくて。


その原因を作ったのは、全て私。



周りがどんどん熱くなってくる。


(やだ、)


パチパチと何かが燃える音が聞こえて、あのおじさんに目を閉じる様に促された感覚が思い出されて。



私の脳裏にありありと浮かぶのは、音を立てて燃え落ちた自分の家と、焼死体と、血だらけの変死体。



私の家族の、真っ赤で真っ黒な運命。