ママの手料理

「ん?自己紹介?誰の?俺の?」


湊さんの意味深な台詞を聞いて首を傾げた彼は、湊さんの視線の先に目をやり、そこで私とようやく目が合った。


私が会釈をすると彼は驚いた様に目を見開き、


「わ、女の子じゃん!どうしたの、迷子?もう家族になったの?連れて来たのどうせ大也だな嫌らしいぞお前!」


また、分かり切っているかの様に大也さんの名前を呼んでにやにやと笑った。


「んー?ごめん、嫌らしいとか何言ってるのって感じなんだけどー?」


彼の声に反応した大也さんは煮物とご飯を交互にかきこんでいた手を一旦止め、まだ口元に嫌な笑みを浮かべているその人を睨み付けた。


「だってお前が働いてるとこってホ」


「今すぐ黙らないと屋上から突き落としますけど?」


その人に向かって何とも物騒な台詞を吐き出した大也さんは、顔をしかめてまた食事を再開した。


まるで1度も日焼けした事が無い様にも見える大也さんの真っ白な手が対称的な黒色の箸を動かしているのを見ていた私は、


「俺の自己紹介をすればいいんだよね?じゃあいきますっ!」


という、銀河さんの隣の席に堂々と座ったその人の陽気な声を聞いて我に返った。