ママの手料理

わざわざ缶コーヒーを私に持たせるくらいなら、自分の右手に缶コーヒーを持ち替えて空いた左手で車の鍵を取ればいいのに。


(逆に手間じゃないのかな)


車が発進する。




「………俺の右手は使い物にならねぇから」


琥珀さんが前を向きながら少しだけ顔を歪めて吐き出したその言葉を聞けたのは、車が発進して約3分後の事だった。




「ねえ銀河、遅いんだけど調べられた?」


“ママの手料理”と書かれたお店の裏口から琥珀さんの家に帰ると、リビングの方からはぎゃあぎゃあと色んな人の声が聞こえて来た。


「うるせぇな」


琥珀さんは舌打ちをしながらリビングのドアを開け、朝と同じくソファーに座ってコーヒーを口元に近づけた。


その後から私が入ると、


「お帰りー!」


テーブルの周りに集まっている何人かが振り向いてくれて、その中でも極めて存在感を放って声の大きい、雪の髪の大也さんがそう言ってくれたけれど。



「天才ハッカーの俺を舐めんな………あったぞ。丸谷 紫苑…いや、谷川 紫苑の名前が“みらい養護園”に」


「え、みらい養護園!?それ俺の実家なんだけど」


「養護施設を実家呼びは止めてくれるかな、」