ママの手料理

会長室に入る前、残りの幹部と闘っている時はまだ耐えられた。


此処に入ってきた時には明るく振る舞っていたけれど、もう右腕と右足の感覚は消え失せている。


というより、身体が上手く動かせない。


(琥珀の右腕の状態、初めて分かったかも…)


目の前にある自分の四肢が動かせないと、こんなにも残酷な気分になるのか。


壁に寄りかかったこの体勢から、動きたくても動けない。


(…あー吐きそう、やばいまじでやばい、)


荒川次郎が何かを言っていて、誰かが発砲してナイフを投げた。


紫苑ちゃんが、泣いている。


「…紫苑ちゃ、……」


動いていないのに息が切れていて、動機も激しい。


(何なんだよあの毒…!)


身体中が痺れてきて、もう何が何だか分からない。


(痛いし痺れるし何か寒いし、ふざけんなよラムダ…!)


こんな状況でも、俺はしっかりと元凶であるラムダに毒づくのは忘れなかった。


汗のせいなのか毒のせいなのか、今度は痺れた身体が意思と関係なしに震えてくる。


目の前では既に、荒川次郎が息絶えていた。



そのまま、何も出来ずにただ傍観していると。


琥珀が低い声で何かを言って、いきなり伊織ーいや、死んだ荒川次郎ーに向かって発砲した。


発砲音が鼓膜を揺らし、それのせいで目眩がもっと強くなる。