ママの手料理

「いや。……お前にしてはよく頑張ったな」


今、彼は一体何を思っているのか。


壱さんは、俯いたまま少しだけ小刻みに肩を揺らしている琥珀の動かない右手を取り、両手で優しく包み込んだ。


いつもならすぐに嫌がって暴言を吐くはずの琥珀も何故か何も言わなくて、壱さんにされるがままで。


「お疲れさん」


その言葉を聞いた琥珀が、俯いたまま大きく息を吐き出すのが分かった。



その隣では、


「大也さん、縄!早く!」


「待って、確か此処に……」


「……お前ら、殺してや」


「ごちゃごちゃうるさいですね僕が殺しますよ」


航海がいつの間にか目が覚めたらしいイオタを押さえ付け、あろう事かその口に琥珀から受け取った銃を突っ込みながら大也に指示を飛ばしていた。


「紫苑が無事で本当に良かったよ…!ごめんね、家に帰ったら順を追って説明するから。痛い所あったら教えてね」


隣に居た湊さんに不意に話しかけられた私は、はい、と、掠れた声を出した。


湊さんが気絶しているデルタの方に向かったのをぼーっと見ていた私だけれど。


「いっ、…!?」


突如襲ってきた激しい頭痛に、頭を抱えて椅子の上で悶絶した。


今まで極度の緊張状態で何も気付かなかったけれど、そういえば非常階段やこの部屋で何度も頭の同じ場所をぶつけていた気がする。