ママの手料理

彼が裏切り者に何て言わせようとしているかが分かったから。


琥珀の声色にはまだ怒りと憎しみ、悲しみが含まれている。


それなのに、そこに愛情も見え隠れしている気がするのは気のせいではないはずだ。


私達の目の前にいる裏切り者はその言葉を受けて一層顔を歪め、手で顔を覆った。


その状態のまま言葉を探して、戸惑い、躊躇しながらも。





「っ………こ、はくの、…mirageの、…家族っ……」


震える声で答えを導いてその場に泣き崩れる伊織に、もう“ニュー”としての面影は微塵もなかった。


「………そうだ、言えたじゃねえか」


自分の感情をコントロールして伊織を殺さなかった琥珀は、ゆっくりと言葉を紡いだ。


彼の右腕は、いつまでもだらりと垂れ下がったままで。


何処からか、誰かが大きく息を吐くのが聞こえた。






その後。


「良くやった。…大丈夫か?」


しばらく放心状態だった私の目に、その場に崩れ落ちる様にして座り込んだ琥珀の肩に手を置き、いつになく優しい口調で語り掛けている仁さん……いや壱さんが映った。


「……これが、お前には大丈夫に見えるのか?」


琥珀の後ろから立ったまま手を伸ばしていた航海に銃を手渡しながら、彼が弱々しくそう吐き出しているのが聞こえた。