ママの手料理

本名で呼ばれた彼は、びくりと身体を震わせて警察官の方を見上げた。


その目は、窓から入ってくる夕日と溜まった涙で一際光っていた。


「OASISとして活動してたお前も、俺の右手をゴミにしたお前も、」


「っ、」


琥珀の噛み締めるような声が段々と大きくなり、それに比例するように伊織の顔が歪んでいく。


「馬鹿みたいに何食わぬ顔でmirageに入ったお前も、自分の罪に気付いたお前も、このクソガキを誘拐したお前も!」


怒りに任せてそばの椅子を蹴り飛ばした琥珀の、荒い呼吸だけが響く。


「全部全部、お前自身なんだよ!お前が今更何て言おうと、お前のその過去は全部今のお前を作ってんだよ!過去は変えられねぇが、お前の未来はいくらでも変えられるんだよ!」


「っ………!」


琥珀が今何をしようとしているのかは誰も分からない。


伊織を殺そうとしているのか、反省させようとしているのか。


ただ、裏切り者の目から我慢出来なくなった一筋の涙が零れた。



「伊織っ!近所の人なんていうクソみたいな役割は捨てて、素のお前になれ!お前は誰だ!?お前の居場所は何処だ!?お前は、誰の家族だ!?」


一際大きな琥珀の声に、私も隣に居た湊さんも息を飲んだ。