ママの手料理

ゆっくりと目を開けると、私の真後ろにいたはずの彼はいつの間にか私の左後ろに移動していて…


いや違う、伊織が撃たれる瞬間に私を突き飛ばして、私に弾が当たらないようにしたのだ。


そんな彼の身体は何処にも赤色が付いていなくて、その現状に1番驚いているのは伊織本人だった。


慌てたようにナイフと銃を落として自分の身体を触り、けれどどこにも異常がないらしく。


「お前じゃなく……荒川次郎を、撃ったんだ」


琥珀の掠れた声で、立ち尽くした私と伊織は同時に死んだ会長の方を向いて気付いた。


彼の額に新たな穴が空き、そこからゆっくりと血が流れている事に。



「なん、で……」


血で覆われた荒川次郎の死体を黙って見ていた伊織が、放心状態で呟く。


事の成り行きをじっと見守る元人質の私に、湊さんが駆け寄ってきて抱きしめられた。


「怖かったね、もう大丈夫だよ」


伊織から解放された私は、湊さんに支えられながら何とかmirageが居る方に向かい、壱さんが用意してくれた椅子に腰掛けた。


湊さんが、ゆっくりと私の猿ぐつわや両手を縛っていたガムテープと縄を解いていく。


その間も、私は琥珀と伊織の方に視線を向けていた。



「……おい、伊織」


mirageは、伊織を“ニュー”とは決して呼ばない。