ママの手料理

「………殺す」


その台詞が聞こえた次の瞬間。





バァンッ………


彼の銃口から勢い良く火が吹く音が聞こえた。


(嘘っ!)


誰かに横に突き飛ばされてよろめきながらも、私は今日何度目かの涙を抑えることは出来なかった。


伊織が死んだ、そんな、信じられない。


琥珀が伊織を憎む気持ちも、殺したくなるのも分かるけれど。


(そんなっ、……!)



伊織は、いつもこんな私に優しく接してくれた。


タピオカが無料になるからと、ほとんど毎日“パパの手料理”に通った時も、


『あ、いらっしゃい!今日は何飲むの?』


と、明るく声を掛けてくれた。


色々と落ち込んでいた私が泣いてしまった時も、


『どうしたどうした、タピオカ不味かった?…仁ー、お前の作ったタピオカ不味いらしいから作り直してあげて!…ほら紫苑ちゃん、泣かない泣かない!俺らはちゃんと家族なんだから、ね?』


と、いつも励ましてくれた。


それなのに、彼を襲った残酷過ぎる運命。


固く瞑られた私の目から、一筋の涙が零れ落ちた。





そして、頭の中に響いていた銃の音が無くなり、聴覚が戻ってくると。


「何で…………」


伊織の、不思議そうな力の抜けた声が聞こえた。


(えっ?)