ママの手料理

私達は、ずっと怪盗mirageに騙されていた。



「ふーん…。で、言いたいことはそれだけ?もう聞くのも疲れたから殺すよこいつ」


再び流れかけた沈黙を、今度は伊織本人が破った。


全てのネタばらしが終わったらしく、湊さんは、


「はぁー、騙し続けるのも疲れるね。このままだと白髪が生えてきそう…」


と呟いていて、全く彼の話を聞いている素振りがない。


「…殺すわ」


後ろで伊織が笑いを含んだ声をあげ、私の首に一層深くナイフを捻り込み。


こめかみに当てられた銃からは、かちりと音がした。


(え!?ちょっと!?)


これは、今度こそ殺される流れではないだろうか。


(湊さん!)


再び感じる恐怖のせいでまた流れてきた涙を押し退けるように瞬きをして、湊さんを見ようとした時。


「…お前さぁ、脅されてただろ」


怒鳴っていた壱さんよりも、サイコパスという言葉が相応しい航海よりも、本性を表した伊織よりも。


その誰よりも比べ物にならないほど恐ろしく、聞いていて息が詰まる程の囁き声が、琥珀の口から漏れた。


その声は小さくて掠れているのに、それなのに私の身体に鳥肌を立たせて身震いさせてしまう程の迫力があって。


「は…?」


その気迫に負けたのか、伊織がナイフを持つ手の力を若干緩めたのが分かった。