何も言わずに元仲間だった彼らの声を受け流していた伊織が怒りに任せて叫び、今度は床に落ちていた銃を拾い上げてナイフを持っていない方の手で私のこめかみにそれを突きつけた。


その態度はもうmirageとしてのそれではなくて、いくら伊織だと分かっていても涙が溢れて止まらない。



「…お前、本気で俺らが何も知らなかったと思ってんのか?」


涙を流す私を哀れむような目で見た銀ちゃんが、静かな声を出した。


(哀れむくらいなら助けてよ!)


そうハッカーに言ってやりたかったけれど、今は口も聞けないしそう訴える様な空気ではない。


だから、私は黙って伊織の心臓の鼓動を感じていた。



「申し訳ないけど…、僕達、全部知ってたんだよね。伊織が紫苑を誘拐するかもしれないのも、僕らを裏切るかもしれない事も、全部」


どのくらい、沈黙が続いたのだろうか。


銀ちゃんの声でまた静かになった8階で新たに口を開いたのは、耳を疑う様な発言をした湊さんだった。


(へ!?)


(全部知ってたって何!?私が誘拐される事も知ってた!?私何も知らなかったよ!?)


猿ぐつわの下で、私はあんぐりと口を開けた。


まあ、猿ぐつわが邪魔で正式には数ミリしか口はあかなかったのだけれど。