「…何してるの、伊織…?」



いつの間にか、部屋の隅で闘っていた人達の音も聞こえなくなっていた。


私とmirage、そして伊織の息遣いしか聞こえてこない部屋の中で真っ先に口火を切ったのは大也だった。


心做しか蒼白い顔をした彼の震える声に、私の後ろに立つ男が鼻で笑うのが分かった。


「お前ら来るのおっそ。OASISも捨てたもんじゃないねー、待ちくたびれたわ」


その口調も態度も、何なら声色も。


全てが、mirageの時の伊織とかけ離れている。


私はここに誘拐された時からこの声を聞いているから何となく慣れてしまったけれど、さすがに湊さん達は驚きを隠せないようで。


「何で紫苑がここにいるの?どういう事伊織、家で待っててって……まさか、」


そこまで独り言のように呟いた湊さんが、ハッとしたように顔を上げる。


「お前、そっちに寝返ったのか!?」


幹部を気絶させ、その背中を椅子がわりにしていた銀ちゃんが、リーダーの代わりに大声をあげた。


「いや人聞きの悪い事言わないでくれる?寝返ったんじゃなくて、元からこっちに居たんですけど?」


怒りを抑えているのか、はははっ、と笑う彼の手に力が込められ、私の首から生暖かいものが伝っている感覚がした。


(…!?)


自分で自分の首を確認することは出来ないけれど、彼が私の首をナイフで切ったのは明らかで。