「紫苑ちゃん、もう大丈夫だからね!俺らを信じて!」


そして、今から遠足にでも行くのか、と突っ込みたくなる程のテンションの高さを保った大也が、壁に寄りかかりながら私に向かって力強い笑顔を見せた瞬間。


「っ、………」


今まで必死で張りつめていた緊張の糸が、パチンと切れた。


意志とは関係なく流れる涙で、目も鼻も猿ぐつわも濡れていく。


手が使えないからそれを拭う事も出来ず、床でただ鼻を啜って安堵のあまり号泣していると。


「お前らにこいつは渡さない。2兆円は私達のものだ」


おもむろにそう言いながら、荒川次郎が私の襟元をむんずと掴んで無理やり立たせた。


(いっ、…!)


痛みが身体中を駆け巡り、また新たな涙が零れる。


真正面から見るmirageの姿は血だらけで、怪我もしているように見受けられた。


息を切らして血が混じる汗を拭い、それでも私を安心させるように笑ってくれる皆。


その姿からは、最早余裕しか感じられない。



そして、私のこめかみに荒川次郎の拳銃が突きつけられる、はずが。



「あれ、そういえば息子は居ないんですか?まさか、今日僕達が来るのを知ってて来させなかったとか?…ふふふっ、まあ何しても無駄ですけど」


血に染まった右足を若干引きずりながら前に出た航海が喧嘩を吹っ掛けた事により、荒川次郎が逆上してしまったのだ。