怪盗という同じ界隈の人しかその名前を知らず、警察ですら捕まえられなかったOASISのリーダー、荒川次郎の正体を掴んだ谷川家の無念を晴らすため、丸谷家は命を懸けて私を守った。


私が死んだら、沢山の人の血と汗と涙の結晶は全て水の泡になるから。



(……!)


もう、視界が霞んで何も見えなかった。


谷川家も丸谷家も、必死の思いで私を守ってくれたのが伝わったから。


あの日、私の視界を優しく手で覆ってくれたおじさんは、今目の前で冷ややかな視線を私に送っている。


「ここは8階、幹部が居るからmirageも辿り着けないだろう。…すぐに殺しにかかるとしよう。ニュー、感謝するよ」


その言葉を聞いた私は何度目かの恐怖で震え上がり、伊織は、


「ありがたき幸せ!」


と、一層深く頭を下げた。







━━━━━━━━━━━━━━━…………………


時を同じくして、mirageの車の中では、


「…ごちゃごちゃごちゃごちゃうっせーなぁ。何なんだあのクソじじい、ベラベラ話すだけで何もしねぇじゃねーか」


つまんねぇな、と、荒川次郎の長たらしい話に嫌気がさした銀河が大欠伸をして伸びをしていた。


パソコンから流れてきているのは、8階での荒川次郎と伊織の会話。