ママの手料理

『とうとう来たか』


燃え盛る炎を見ながら、覚悟を決めた目つきで父は呟いていた。


あの言葉は、近いうちにこうなる事を予期していたから出たものに違いない。


(なら、早く逃げれば良かったのに…!)


「谷川家には、逃げるという選択肢は残されていなかった。どこに逃げても、この地球上に存在する限り私の部下が見つけ出してしまうからね。警察に向かったとしても無駄だ。何せ、その前に私の部下が射殺するだろうから」


私の脳内に浮かんだ質問に答えるかのように、彼は淡々と言葉を紡ぎ出していく。


「丸谷家も駄目だったね、あそこの親も勘が鋭かった。2ヶ月程前…どんな風の吹き回しか知らないが、君が預けられていた養護園で話を聞いた彼らはすぐにOASISと私を結び付けた。何をしても無駄だと忠告はしたが、君達は懲りずに引っ越した。…その結果が、これだ」


『よし皆、今から隠れんぼをしよう』


あの日、そうやって提案した両親は、とても悲しそうな目をしていた。


何があっても出てきてはいけない、声も出してはいけない。


あれはやはりOASISから私達を遠ざけるためのルールで、2兆円の保険金をかけられた我が子を守る為の最後の言葉だったのだ。


生き残りである私を殺させないように、2兆円がOASISの手に渡らないように。