ママの手料理

髪の毛はぐしゃぐしゃで身体の節々は痛く、もう目も開けられない。


ただただ、声にならない声を上げながら目をつぶって痛みに耐えていると。



「ニュー、少しやりすぎではないかな？怒るのは分かるが、女の子相手に暴力を振るいすぎるのは良くないね」


伊織の背後から、よく知っている声が聞こえた。


「はっ。申し訳ございませんでした、会長」


瞬間、あれ程私を蹴り続けていた伊織の足の感覚が私のお腹から消えた。


ゆっくりと目を開けると、彼が気をつけの姿勢になり、くるりと振り返って声の主に向かって深く一礼をしているところだった。


「あーあ、こんなに無様な姿になっちゃって…。でも安心してね、すぐに皆と同じ場所に逝けるから」


その声の主は立ち上がり、私に向かって語り掛けながらゆっくりと歩みを進め、私の目の前で立ち止まった。


(あ、……！？)


覚悟はしていたけれど、やはり目の前で見ると極度の恐怖感に襲われる。


「久しぶりだね、紫苑ちゃん。元気にしていたかな？あの時の火事は大変だったね」


頭を下げ続ける伊織の横で、ボロボロの私を見て優しく目を細めて笑ったのは他でもない、荒川次郎だった。