ママの手料理

『んじゃ、パスワードを教える。最初は2、次は……』


低く心地のいい彼の声を聴きながら、壱がゆっくりとパスワードを入力していく。



ほとんど、右腕の感覚は消え失せていた。








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「…どういう事ですかイオタ様!?ガンマが、ガンマがこいつを逃がしたなんて、そんなこと信じられるわけがありません!」


「俺達も良く分からないんだ、こいつがトイレに行きたいと言ったからドアを開けたら、逆に俺達が閉じ込められちまって!」



ここは何処だろう。


自分の上の方から、伊織と、聞いた事のある男達の声が聞こえてくる。


「因みに、ガンマ様は非常階段の踊り場でエータと死んだ。あいつも最後の最後で裏切りに走ったんだな」


(ガンマが死んだ!?)


別の人の発した言葉の意味を理解した瞬間、私のぼんやりとしていた意識は一気に覚醒して。


目をカッと見開いて、嘘だ!、と叫んだけれど。


デジャブだろうか、私の目には布がかかっていて何も見えず、おまけにまた猿ぐつわをかまされていて言葉を発せなかった。


ガンマは防弾チョッキを着ていると言っていたけれど、あれはただ私を安心させる為の嘘だったのだ。


「あれ、気づいた?」


両手両足をまた縛られた私が不可解な動きをしている事に気がついたのか、誰かが私の目の前にしゃがんだのが分かる。