ママの手料理

「防弾チョッキ、着てるから…………ほら早く逃げて、!」



その瞬間、


「ゔっ、……げほっ、」


苦しそうに顔を歪ませた彼は、その場に血を吐いた。


「っ、……」


(防弾チョッキ…?……違う、逃げないと、)


頭では分かっていても身体が動かなくて、助けたいのに、逃げたいのに何も出来ない。


「ほら逃げて、……早く!」


ガンマがヒューヒューという音を出しながら大声をあげ、それでも私が動けずにいると。



「…絶対に振り返らないで!走れ!」


何処にそんな力が残っていたのか、彼は起き上がって勢い良く私を突き飛ばした。


(っ……!)


その衝撃で我に返った私は、一目散に階段を駆け下りていった。



後ろから、


「…エータ、お前に2兆円は渡さねぇよ…」


というガンマの掠れた声と共に銃声が聞こえてきたけれど、振り返るなと言われたから後ろがどうなっているかなんて分からない。


ただ、


「生きて………」


命の恩人であるガンマの為に、涙を流して視界がぐちゃぐちゃになりながら祈る事が、今の私に出来る精一杯だった。





「逃げても無駄だぞ2兆円ー!」


ガンマが銃を発砲したというのに生きていたのか、あのドレッドヘアの男性の声が壁に反響して聞こえてくる。