ママの手料理

「はい、ここ洗面所。…って、ん!?」


洗面所まで案内してくれた湊さんの大声に気付かなかったふりをして、私は黙々と手を洗い始めた。


「…ありがとうございます」


「いや待って、えっ、何それ血?血だらけじゃん。腕とか、よく見たら服も。……ちょっと落ち着け僕、いや無理だこの子は一体何があった大也ー!大也こっち来てー!…大也今すぐ来ないとどうなるか分かってるね」


静かめの低い声がどんどん大きくなり、最後にはドスを利かせる様なある意味静かな声になって。


「はい分かってます伊藤大也は此処に参上して参りましたどうされましたか?」


瞬間、大也さんが息を切らして洗面所まで駆け付けた。


「大也、この子の手…」


「ああ、会った時から血だらけだったよ」


躊躇う事無く石鹸を使い、洗面所に赤い液体を流していく私の後ろで、2人が小声で話しているのが丸聞こえだ。


「何でなの?あれ、よくよく見たら君の服にも血がついてるね、…この女の子は何か事情があったと思うけど君はどうした大也、ん?」


湊さんは、今度は大也さんの服に私が付けてしまった血に気付いて、今度は笑顔で彼に質問をした。


もちろんその目は恐ろしい程冷め切っていて、大也さんが分かりやすく身震いしたのが洗面所の鏡越しに見える。